『オーデュボンの祈り』『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』『砂漠』など、軽快な会話と緻密な構成で多くの読者を引き込んできた伊坂幸太郎。
ミステリー作家として紹介されることが多い一方、作品の魅力は謎解きだけではありません。犯罪者や殺し屋が登場する物語でもユーモアがあり、偶然に見えた出来事が後からつながり、最後には人と人との関係が強く残ります。千葉県松戸市に生まれ、東北大学進学を機に仙台へ移り住み、会社員としてシステムエンジニアを続けながら小説を書いた経歴も、現在の作風を考えるうえで重要です。
この記事では、伊坂幸太郎の経歴・学歴、作家になるまでの道のり、代表作、作風、受賞歴、仙台との関係を整理しながら、初めて読む人におすすめの作品と読む順番、殺し屋シリーズの順番、2026年現在の最新情報までまとめます。
- 東北大学法学部卒業後、仙台の会社でシステムエンジニアとして働きながら小説を書き、2000年『オーデュボンの祈り』でデビューした
- 『アヒルと鴨のコインロッカー』『死神の精度』『ゴールデンスランバー』『逆ソクラテス』など、長編から短編まで幅広い作品で文学賞を受賞している
- 軽妙な会話、複数の物語が一つにつながる構成、ユーモアと不穏さの同居が特徴で、仙台の街と音楽が創作の大きな源になっている
経歴と作品世界へ入る前に、作家としての骨格を短く整理します。
伊坂幸太郎の生い立ち・学歴|千葉県松戸市から東北大学法学部へ
伊坂幸太郎は1971年、千葉県松戸市に生まれました。大学進学を機に宮城県仙台市へ移り、東北大学法学部で学びます。1995年に卒業し、その後も仙台を生活の拠点としてきました。
意外に感じられるのは、大学が文学部ではなく法学部だったことです。東北大学の卒業生インタビューでは、小説が好きだから文学部へ行くのは安易かもしれないと考え、むしろ知らないことを学べそうな法律を選んだ趣旨を振り返っています。
ただし、小説を書くこと自体は大学時代から続けていました。友人には内緒で書き、創作に時間を使ったこともあったと本人が語っています。つまり、2000年のデビューよりかなり前から、仙台で学生生活を送りながら「書くこと」は日常の一部になっていました。
僕は小説を書いているだけなんです。
東北大学萩友会インタビュー
仙台でシステムエンジニアに|作家になる前の会社員時代
1995年に大学を卒業した伊坂幸太郎は、仙台のソフトウェア会社へ就職し、システムエンジニアとして働きました。法学部からコンピュータ関係の仕事へ進んだため、一見すると小説とは離れた経歴に見えます。
しかし本人は後年、システムエンジニアの仕事について、実際には人間関係が非常に多く、会社員としてその経験をしたことが創作にも役立っていると語っています。プログラムも「相手に伝わるように組み立てる」という意味では文章と似ていると感じていたそうです。
品質管理の部署では、不具合がなぜ起きたのか原因を調べる仕事も経験しました。伊坂作品には、一つの事件を「なぜそうなったのか」と分解し、複数の人物や出来事をつないでいく作品が多くあります。本人も、自分の作風には論理的に構築する部分と人情的な部分の両方があると話しています。
会社員時代は小説家になるまでの空白ではなく、論理と人間関係の両方を見る伊坂作品の土台になった時期でした。
サントリーミステリー大賞佳作から『オーデュボンの祈り』へ|2000年デビュー
会社員として働きながら執筆を続け、1996年には『悪党たちが目にしみる』で第13回サントリーミステリー大賞佳作に選ばれました。この作品は後に大幅に改訂され、『陽気なギャングが地球を回す』として刊行されます。
そして2000年、『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、小説家としてデビューしました。外界から隔絶された島、未来を知る案山子、不思議な住民たち。ミステリーでありながら現実から少しずれた世界を成立させるこの作品には、その後の伊坂作品につながる要素がすでに数多くあります。
デビュー後もしばらく会社員を続けましたが、執筆に専念するために退職。会社で働きながら早朝や仕事後に小説を書く生活から、専業作家へ移っていきました。
『アヒルと鴨のコインロッカー』『死神の精度』で評価が広がる
デビュー後は『ラッシュライフ』『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』などを次々と発表。複数の人物の物語が交差する構成、テンポのよい会話、音楽や映画を思わせるリズムによって、伊坂幸太郎という作家の個性が急速に形づくられていきます。
2004年には『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を受賞。同年、短編「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門も受賞しました。
『アヒルと鴨のコインロッカー』は、大学へ入ったばかりの青年が奇妙な本屋襲撃計画へ巻き込まれる物語です。読者が信じていた時間や人物関係の見え方が途中で変わる構成は、伊坂作品の「読み終えると最初から見直したくなる」感覚を強く味わえる一冊です。
一方の「死神の精度」は、人間の死を判定する死神・千葉を主人公にした作品。死を扱いながらも湿りすぎず、人間の可笑しさや音楽への愛が残ります。長編だけでなく短編・連作でも力を発揮する作家であることを示しました。
『ゴールデンスランバー』で本屋大賞・山本周五郎賞|大きな飛躍へ
2008年、伊坂幸太郎のキャリアを象徴する大きな節目となったのが『ゴールデンスランバー』です。首相暗殺の犯人に仕立てられた男が、仙台の街を逃げ続ける物語で、第5回本屋大賞と第21回山本周五郎賞を受賞しました。
巨大な仕組みに一個人が追い詰められるサスペンスでありながら、主人公を救うのはかつての友人、昔の記憶、何気ないつながりです。派手な逃走劇と「人を信じること」が同じ物語の中で成立しており、伊坂作品を初めて読む人にも特徴が伝わりやすい代表作です。
複雑な仕掛けの先に、人と人との信頼を置く――『ゴールデンスランバー』は伊坂幸太郎らしさが大きな物語として結晶した作品です。
伊坂幸太郎の作家人生の転機|歩みを変えた5つの節目
伊坂幸太郎の経歴をたどると、作家人生はいくつかのはっきりした節目で広がってきたことが分かります。
第一は、東北大学進学を機に仙台へ移ったこと。第二は、会社員として働きながら新人賞へ応募し、1996年に佳作へ入ったこと。第三は、2000年『オーデュボンの祈り』でデビューしたことです。
第四は、2004年に『アヒルと鴨のコインロッカー』と「死神の精度」で二つの大きな賞を得た時期。そして第五が、2008年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞を同時に受賞したことです。
その後も同じ成功パターンに留まらず、殺し屋シリーズ、社会性の強い『魔王』『モダンタイムス』、小学生を主人公にした『逆ソクラテス』、阿部和重との合作『キャプテンサンダーボルト』など、作品ごとに形式を変えてきました。
伊坂幸太郎の創作方法・執筆習慣|書きながら考え、歩きながら着想する
伊坂幸太郎の作品は、終盤で複数の伏線が結びつくため、最初からすべてを設計して書いているように見えます。ところが本人は、『ホワイトラビット』のインタビューで、普段はプロットをきっちり立ててから書く方法ではないと説明しています。
阿部和重との合作『キャプテンサンダーボルト』では例外的に、システムエンジニア時代に使っていた仕様設計書の形式を応用した構成表を作りました。その対談で本人は、普段の執筆について次のように話しています。
普段の自分は書きながら考えるんです。
文藝春秋「キャプテンサンダーボルト」対談
もう一つ重要なのが「歩くこと」です。仙台で暮らし、ウォークマンで音楽を聴きながら街を歩いている時にアイデアが生まれることがあると語っています。机に向かっている時間だけが創作ではなく、街を移動しながら言葉や場面が育っていくわけです。
伊坂幸太郎の主な作品と作風・特徴
伊坂幸太郎の主要作品を比べる
気になる作品を、刊行時期・ジャンル・作品の位置づけから見比べられます。
伊坂幸太郎の作品はミステリー、青春小説、犯罪小説、SF的設定、社会派の物語まで幅があります。それでも「伊坂作品らしい」と感じられる共通点があります。
会話のテンポとユーモアで重い題材を読ませる
殺人、誘拐、死、暴力、政治的な圧力など、扱う題材は決して軽くありません。それでも登場人物同士の少しずれた会話や冗談が入り、物語が必要以上に重く沈みません。
殺し屋を主人公にした作品でも、恐怖だけではなく人間臭い悩みや可笑しさがあります。『AX』では腕の立つ殺し屋が家庭では妻に頭が上がらないというギャップがあり、犯罪小説と家族小説の面白さが同居しています。
別々に見えた出来事が最後につながる構成
『ラッシュライフ』のように複数の人物を並行して描く作品では、最初は関係のない話に見えたものが次第につながっていきます。『アヒルと鴨のコインロッカー』では時間と人物の理解が組み替わり、読者が見ていた物語そのものの意味が変化します。
伏線回収の爽快さだけでなく、「あの場面には別の意味があった」と気づかせる設計が強みです。そのため再読すると、初読では気づかなかった言葉や配置が見えてきます。
不条理な世界でも、人間への希望を残す
伊坂作品には、個人では簡単に変えられない大きな仕組みがしばしば登場します。『ゴールデンスランバー』では巨大な陰謀、『魔王』『モダンタイムス』では社会やシステムの圧力が描かれます。
それでも結論が「何をしても無駄」で終わるわけではありません。世界そのものを変えられなくても、誰かを信じる、小さな行動を選ぶ、自分のやり方で生きる。その余地が残されることが、伊坂作品の読後感につながっています。
仙台は伊坂作品の「もう一人の登場人物」|街と創作の関係
伊坂幸太郎を語る時、仙台は単なる住所ではありません。東北大学進学以来、長く仙台で暮らし、『ゴールデンスランバー』『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』『ラッシュライフ』『ホワイトラビット』など、多くの作品で仙台やその周辺が重要な舞台になっています。
2025年のインタビューでは、仙台は歩いて暮らせる規模感で、音楽を聴きながら歩いている時にアイデアが生まれると説明しています。
仙台だから書けた作品はめちゃくちゃあります。
好書好日「パズルと天気」インタビュー
作品の中では、街の地理が説明のために置かれるだけでなく、人物が歩き、逃げ、偶然出会うための装置として機能します。東京ほど巨大ではない一方、人と人が偶然交差できる距離感がある。そのサイズ感が、伊坂作品の「別々の人生がどこかでつながる」構成と相性がいいことも見えてきます。
伊坂幸太郎にとって仙台は、作品の舞台であると同時に、歩くことで物語のアイデアを生み出す創作環境でもあります。
伊坂幸太郎の殺し屋シリーズとは?|『グラスホッパー』から『777』まで
検索でも特に人気が高いのが「殺し屋シリーズ」です。2024年に公式サイトがシリーズとして整理しているのは、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『777 トリプルセブン』の4作です。
第1作『グラスホッパー』では、妻を失った元教師・鈴木と、個性的な殺し屋たちの世界が交差します。『マリアビートル』では東北新幹線を舞台に、複数の殺し屋が同じ列車へ集まり、目的の違う人物たちが高速でぶつかっていきます。同作は海外で映画『ブレット・トレイン』の原作にもなりました。
『AX アックス』では、凄腕の殺し屋「兜」が家庭では恐妻家という設定を通して、裏稼業と家族生活の落差を描きます。そして『777 トリプルセブン』では、『マリアビートル』にも登場した不運な殺し屋・七尾が高級ホテルで予想外の事件へ巻き込まれます。
物語はそれぞれ一冊でも読めますが、人物や世界観のつながりを楽しみたいなら、『グラスホッパー』→『マリアビートル』→『AX アックス』→『777 トリプルセブン』の刊行順が最も分かりやすい読み方です。
伊坂幸太郎の代表作・おすすめ作品7選
『オーデュボンの祈り』|伊坂ワールドの原点を知るデビュー作
伊坂幸太郎の世界観を原点から知りたいなら、デビュー作『オーデュボンの祈り』がおすすめです。
2000年のデビュー作。外界から隔絶された島を舞台に、言葉を話す案山子をはじめ不思議な存在が登場します。幻想的なのに、物語の各要素は後から一つの線につながっていきます。伊坂作品の「現実から少しずれた設定」と「構成の面白さ」を知る原点です。
現実から少しだけずれた設定と、後から伏線がつながる構成という伊坂作品の魅力がすでに詰まっています。刊行順に作家の変化を追いたい人の最初の一冊にも向いています。
『アヒルと鴨のコインロッカー』|仕掛けの鮮やかさを味わう
伊坂幸太郎の「構成で驚かせる面白さ」を体験したいなら、『アヒルと鴨のコインロッカー』がおすすめです。
大学進学で仙台へ来た青年が、隣人から本屋を襲う計画へ誘われるところから始まります。現在と過去、語られている人物、読者が信じている前提が巧みに組み替えられます。2004年の吉川英治文学新人賞受賞作です。
読者が信じていた前提が組み替えられるため、読み終えたあとに最初から見直したくなる作品です。ミステリーの仕掛けが好きな人にとって、伊坂作品の魅力が分かりやすい一冊です。
『重力ピエロ』|兄弟と家族を描く人気作
謎解きだけでなく兄弟や家族の物語を読みたいなら、『重力ピエロ』が向いています。
仙台で起きる連続放火と、グラフィティアート、遺伝子、家族の過去がつながっていく長編です。ミステリーの謎だけでなく、兄弟と両親の関係が物語の中心にあります。伊坂作品の中でも「家族」を強く読みたい人に向く一冊です。
事件の構造と家族の過去が重なっていくため、ミステリーと人間ドラマの両方を味わえます。伊坂作品の会話や人物関係を重視したい人におすすめです。
『砂漠』|大学生5人の青春を追う
伊坂幸太郎の会話や人間関係の魅力を、青春小説として楽しみたいなら『砂漠』がおすすめです。
仙台の大学へ入学した5人の学生が、麻雀、恋愛、合コン、事件などを経験しながら成長していく青春小説です。「伊坂幸太郎=ミステリー」というイメージから少し離れて、人間関係と会話の魅力を味わえます。検索でも長く人気の高い作品です。
大きな謎を追う作品ではなく、大学生活の中で5人の関係が育っていくこと自体が読みどころです。ミステリー色の強い作品が苦手な人の入口にも向いています。
『ゴールデンスランバー』|スリルと友情を両方味わう代表作
伊坂幸太郎の代表作を一冊選ぶなら、『ゴールデンスランバー』は非常に強い候補です。
首相暗殺犯に仕立てられた男が仙台を逃げる大規模なサスペンス。社会の巨大な仕組みに追われながら、過去の友人や人とのつながりが主人公を支えます。本屋大賞と山本周五郎賞を受賞しており、最初の一冊としても選びやすい代表作です。
逃走劇のスリルと、過去の人間関係が主人公を支える温かさが同時にあります。物語の勢い、伏線、人とのつながりという伊坂らしさを一冊で広く味わいたい人におすすめです。
『グラスホッパー』|殺し屋シリーズを始めるならここ
殺し屋シリーズに興味があるなら、必ず第1作『グラスホッパー』から始めるのがおすすめです。
殺し屋シリーズの第1作。鈴木、鯨、蝉など、それぞれ異なる目的を持つ人物の視点が交差し、やがて一本につながります。犯罪を扱いながらも会話には独特のユーモアがあり、その後の『マリアビートル』『AX』『777』へ続く世界の入口です。
複数人物の視点が交差して一本につながる構成を楽しめ、その後のシリーズで広がる人物像や世界観の入口にもなります。シリーズを長く追いたい人には特に重要な一冊です。
『逆ソクラテス』|短編で伊坂幸太郎の現在形を読む
長編より短編から伊坂幸太郎を読みたい人には、『逆ソクラテス』がおすすめです。
小学生を主人公にした5編を収めた短編集です。大人から押しつけられる評価や先入観に、子どもたちが自分たちの方法で向き合います。2020年に第33回柴田錬三郎賞を受賞し、デビュー20年を経た伊坂幸太郎の新しい代表作になりました。
子どもを主人公にしながら、大人の先入観や評価の危うさを描いているため、読みやすさとテーマの深さを両立しています。近年の伊坂作品から入る一冊としても選びやすいです。
伊坂幸太郎を初めて読むなら?おすすめの読む順番
好みを選ぶと、この記事に登録された作品から「1冊目 → 2冊目 → 3冊目」の読む順番を提案します。
伊坂幸太郎の作品は独立した長編も多いため、すべてを刊行順に読む必要はありません。何を楽しみたいかで入口を変えると選びやすくなります。
王道で作風を知る|『オーデュボンの祈り』→『アヒルと鴨のコインロッカー』→『ゴールデンスランバー』
デビュー作で独特の世界観を知り、『アヒルと鴨のコインロッカー』で構成の鮮やかさを体験し、『ゴールデンスランバー』でスケールの大きい代表作へ進むルートです。伊坂幸太郎の変化を追いながら読めます。
青春・人間ドラマから入る|『砂漠』→『重力ピエロ』→『アイネクライネナハトムジーク』
殺人や犯罪が前面に出る作品より、人間関係を中心に読みたい人向けです。大学生の友情、家族、恋愛と出会いへテーマが変わり、伊坂作品のやさしい側面を広げて読めます。
殺し屋シリーズは刊行順|『グラスホッパー』→『マリアビートル』→『AX』→『777』
同じ世界を共有する人物や出来事を追いやすくするなら、この順番がおすすめです。『マリアビートル』から読んでも物語は理解できますが、第1作から読むと再登場人物やシリーズの変化をより楽しめます。
短編から入りたい|『死神の精度』→『逆ソクラテス』→『パズルと天気』
一冊の長編に入る前に短い作品で文章のテンポを知りたい人向けです。死神を通して人間を見る連作、子どもの視点から先入観を覆す短編集、デビュー25周年期に刊行された『パズルと天気』と進むと、長い作家生活の幅も見えてきます。
迷ったら『ゴールデンスランバー』か『アヒルと鴨のコインロッカー』。殺し屋シリーズ目的なら『グラスホッパー』から始めると分かりやすいです。
映画化・海外展開|『マリアビートル』から『ブレット・トレイン』へ
伊坂幸太郎作品は映像化も多く、『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』『陽気なギャングが地球を回す』『アイネクライネナハトムジーク』などが映画になっています。
海外で特に知られるきっかけの一つが、殺し屋シリーズ第2作『マリアビートル』です。英訳を経てハリウッド映画『ブレット・トレイン』の原作となり、日本の新幹線を舞台にした殺し屋たちの群像劇が世界へ広がりました。
映像から原作へ入る場合、映画では省かれた会話や人物の内面、別作品とのゆるやかなつながりを小説で確認できるのが面白さです。伊坂作品は同じ人物が別の作品に顔を出すこともあるため、読み進めるほど「この人はあの作品にもいた」と気づく楽しみが増えていきます。
伊坂幸太郎の文学賞・受賞歴|吉川英治文学新人賞から柴田錬三郎賞まで
伊坂幸太郎は1996年、『悪党たちが目にしみる』で第13回サントリーミステリー大賞佳作。2000年には『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビューしました。
2004年には『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2008年『ゴールデンスランバー』では第21回山本周五郎賞と第5回本屋大賞を受賞し、人気と評価の両面で代表作となりました。
その後も2014年『マリアビートル』で大学読書人大賞、2017年『AX アックス』で静岡書店大賞小説部門、2020年『逆ソクラテス』で第33回柴田錬三郎賞を受賞しています。
そしてデビュー25周年の2025年に刊行された『さよならジャバウォック』は、2026年本屋大賞にノミネートされ、最終結果は10位となりました。デビューから四半世紀を経ても、新作が大きな読書賞の候補として読まれていることが分かります。
伊坂幸太郎の人物関係・合作|阿部和重と『キャプテンサンダーボルト』
伊坂幸太郎の創作上の人物関係で特にユニークなのが、作家・阿部和重との合作です。二人は2014年、『キャプテンサンダーボルト』を共同で発表しました。
単に章を交互に担当するのではなく、一つの小説を二人で作り上げる「完全合作」を目指し、物語の構造や文体を何度も調整しました。この時、伊坂はシステムエンジニア時代の仕様設計書を応用して、章ごとの構成を整理した表を作成しています。
普段は書きながら考える伊坂と、プロットを組み立てる阿部。方法の違う二人が共同作業をするために、過去の会社員経験が思わぬ形で生きた例です。作品そのものだけでなく、「作家が二人で一冊を書くにはどうするか」という制作過程も興味深い合作になりました。
伊坂幸太郎の現在・近況|『さよならジャバウォック』と2026年の新刊
2025年は伊坂幸太郎のデビュー25周年にあたり、新潮社では記念フェアが行われました。同年1月に『楽園の楽園』、5月に短編集『パズルと天気』、10月には書き下ろし長編『さよならジャバウォック』が刊行されています。
『さよならジャバウォック』は、家庭内で起きた死から始まる長編ミステリー。双葉社はデビュー25周年の書き下ろし作品として展開し、2026年本屋大賞で10位に入りました。
2026年6月には、殺し屋シリーズ第4作『777 トリプルセブン』が角川文庫化。同月、新潮文庫「100冊」50周年記念アンソロジー『プレゼント』も発売され、伊坂幸太郎は「ウッドペッカー荘事件」を収録しています。
つまり2026年9月現在、新しい単行本長編としては2025年10月刊行の『さよならジャバウォック』が最新で、2026年には既刊の文庫化や新作短編を含むアンソロジーが続いています。シリーズを追う読者にも、短編から入る読者にも新しい入口が用意されています。
伊坂幸太郎についてよくある質問
伊坂幸太郎の出身地は?
1971年、千葉県松戸市生まれです。大学進学を機に仙台へ移り、東北大学卒業後も仙台を生活と創作の拠点にしています。
伊坂幸太郎の最終学歴は?
東北大学法学部卒業です。1995年に卒業しています。
伊坂幸太郎は作家になる前に何をしていた?
仙台のソフトウェア会社でシステムエンジニアとして働きながら小説を書いていました。
伊坂幸太郎のデビュー作は?
2000年刊行の『オーデュボンの祈り』です。同作で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しました。
伊坂幸太郎の代表作は?
『ゴールデンスランバー』『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『砂漠』『死神の精度』『グラスホッパー』『逆ソクラテス』などがあります。
伊坂幸太郎を初めて読むなら何がおすすめ?
王道の代表作なら『ゴールデンスランバー』、仕掛けを楽しむなら『アヒルと鴨のコインロッカー』、青春小説なら『砂漠』、殺し屋シリーズなら『グラスホッパー』が入りやすい作品です。
殺し屋シリーズの読む順番は?
『グラスホッパー』→『マリアビートル』→『AX アックス』→『777 トリプルセブン』の刊行順がおすすめです。
伊坂幸太郎の最新作は?
2026年9月時点で最新の単行本長編は、2025年10月22日刊行の『さよならジャバウォック』です。2026年6月には『777 トリプルセブン』の文庫版と、伊坂作品を収録したアンソロジー『プレゼント』が発売されています。
まとめ|伊坂幸太郎は「偶然」を人と人のつながりへ変える作家
伊坂幸太郎は1971年に千葉県松戸市で生まれ、東北大学法学部進学を機に仙台へ移りました。卒業後はシステムエンジニアとして働きながら小説を書き、1996年に新人賞の佳作、2000年『オーデュボンの祈り』でデビュー。『アヒルと鴨のコインロッカー』『死神の精度』で評価を広げ、2008年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞を受賞しました。
作風の特徴は、軽快な会話、複数の人物や時間が交差する構成、音楽や映画を思わせるテンポ、そして偶然に見えた出来事が最後につながる爽快さです。しかし、その仕掛けだけが魅力ではありません。世界が不条理でも、完全に人を信じられない状況でも、誰かの小さな行動や信頼が物語を動かします。
初めて読むなら『ゴールデンスランバー』『アヒルと鴨のコインロッカー』『砂漠』から、殺し屋シリーズなら『グラスホッパー』から。2025年にはデビュー25周年作『さよならジャバウォック』が刊行され、2026年には『777 トリプルセブン』が文庫化されました。経歴と作品を一緒にたどると、仙台の街、会社員時代の論理性、音楽と会話、人へのまなざしが、長い作家生活の中で形を変えながらつながっていることが見えてきます。











